見下す蠍の徒然

読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

見下す蠍の徒然

IF YOU WANT TO FIGHT, BE STRONG!!

米澤穂信「いまさら翼といわれても」

氷菓」シリーズ6年ぶりの新作らしいです。

私はアニメ化されてから米澤穂信という作家を読み始めたので、6年ぶりといわれても実感はないのですが、まあ、出るということを知ってからは結構楽しみにしておりました。

11月30日に出てたんですね。少し見落としてまして、買ったのは先週の土曜日です。

最初は本で買おうかと思いましたが、半年前に買ったKindle Paperwhiteをいまいち有効活用できてない感じもありましたし、Kindleで買うことにしました。

値段は1460円と少し安く、それにポイントも15%つく(書いてる時点で)ので、結構安いですね。

新刊でこれくらいの値段だったらKindleでどんどん買おうという感じがします。

前のものだとセール時でないとちょっと手を出しにくいのですが……

 

閑話休題

短編集らしく、一貫したストーリーはないけども、少しずつ時が流れていく、というスタイルです。

奉太郎たちが2年生になった春から、夏休み(の初日)までの間のお話。

 

あらすじはウィキペディアに書いてあるから読んで下さい。

いまさら翼といわれても - Wikipedia

 

1.箱の中の欠落

奉太郎と里志の短時間の会話で全てが進みます。

奉太郎が夕食の焼きそばを作っていたところ、突然里志から呼び出された、という奉太郎が一人称の話。

里志が総務委員会の仕事として立ち会った生徒会長選挙で起こった票の水増し事件について、奉太郎に助けを求めます。事件自体は奉太郎が里志から開票の方法を聞いていく中で割とあっさりと解決する、ミステリとしてはそこまで難しくないものです。

この話のいいところは、里志がわざわざ奉太郎を夜に呼び出してまで相談をした理由がすごく里志らしくなく、「データベース」を標榜していた里志とは違うところ。ここでの里志に限らず、本書に収録された短編においてはどれも古典部の四人の「変化」に焦点が当てられています。

  

本筋とは関係のないことですが、結局行われた再投票の結果は、当初のものと変わったのでしょうか?勝者の名前は明らかにされているものの、最初の投票の結果は、「百俵近い差」がついていることだけ明かされているのみで、どの候補者が勝ったのか、また再投票によって結果が覆ったのかは明かされないままです。

 

あ、今回女性陣は登場はしません。

 

2.鏡には映らない

卒業制作に込められた密かなる悪意と、それに気づいた(というところが実はネタバレ)奉太郎の話が摩耶花を一人称、探偵役として書かれます。

 

この話、最後に里志が小さく介入をしているのですが、それが悪意には悪意、毒をもって毒を制す、人を呪わば穴二つ、という感じで好きです。いや、これも里志がやったのか、奉太郎が考えたのかはわかりませんが、なんとなく里志がやったんじゃないのか、と思います。

 

摩耶花は里志のことを好きだけど奉太郎はきらい(好きではない?)というのが摩耶花の感情と思いますが、その理由の一つと思われる事件についてのエピソードです。ですが、それを受けて摩耶花の奉太郎に対する感情はどうなったのでしょうか。調べよう、なんて思う時点で大分変わってるんじゃないかと思いますけど。

 

この話は、二編収録されている奉太郎の「過去」についての話。

 

3.連峰は晴れているか

奉太郎の、もう会うこともない人間に対する配慮だけを(表面上の)理由とした行動の話。

奉太郎が「自発的」にした行動について3人からあんまりな言葉が浴びせられますが……

果たして奉太郎が会うこともない人間への配慮のために調べたのか、本当は「気になった」だけなのか、どちらでしょうかね。

 

それにしても、

「折木さんの好奇心をくすぐるものがこの世に存在するなんて、それって一体何なのか……。わたし、気になります!」 

 

と言うのはあまりに失礼?

 

ああ。

こいつもいい加減、失礼ではある。 

 

という奉太郎もさもありなん、という感じです。

ちなみにこのシーンが本巻唯一(少し前にありますが)の「わたし、気になります!」です。

 

4.わたしたちの伝説の一冊

って結局何なんでしょう。これから二人で作る一冊、という解釈なのか、あるいは「夕べには骸に」なのか。

 

摩耶花が一人称。これに限ってはミステリーではないと思うな。推理要素ないもの。

 

冒頭、2月に摩耶花の書いた漫画がある雑誌の努力賞に選ばれたところから話が始まります。そこから3か月時が経つのですが、ぼうっと読んでいるとその時間経過を見逃してしまいます。

漫研内での「読むだけ派」「描きたい派」の対立が悪化……ということで、そんな話もあったな、と思い出します。河内亜也子という名前が一瞬思い出せませんが、「夕べには骸に」の原作者安城春菜の友人で漫研摩耶花と言い争いをした人ですね……というところまで思い出しますした。クドリャフカの順番あたりから読み返すと理解が深まる気がします……「ボディトーク」の作者ですね。このあたりの話が引っ張り出されてきます。

 

漫研内でのヒエラルキー争いのために企画された同人誌に巻き込まれた摩耶花を見かねた河内が、万件をやめ、自分と組むことを薦め……といったところ。

 

河内が漫研をやめたことにより対立が激化した、という話なのですが、その理由が冒頭の努力賞にあり、よくできているなあ、と感心します。

 

まあ、この話はクドリャフカの順番をもう一度読み返さないと理解できない気がするので、読み返そうかと思います。

あ、ここまで書いてわかりましたが、やはり「伝説の一冊」は「夕べには骸に」ですよね。伊原摩耶花と河内亜也子というふたりが「わたしたち」であるならば、「伝説の一冊」は「夕べには骸に」以外あり得ないと思います。

里志も出てくるけども、古典部とは独立した、摩耶花だけの話。

 

5.長い休日

休みで晴れているから少し出かけよう、しかし近所の神社だとエネルギーを持て余すから少し遠くの神社に行こう、と奉太郎らしからぬ思考の話。

そこで十文字かほ(これまた誰?と思った。文化祭で占いをしていた人。えるの友達)と会い、たまたま訪ねていたえるになぜ省エネ主義になったのか、を説明する話。奉太郎の過去の話2。

 

6.いまさら翼といわれても

一人称は奉太郎。合唱祭に出るえるが、当日行方不明になったところから始まる話。

それを摩耶花から聞いて、ちゃんと駆けつける奉太郎もらしくない気もしますけど、ある意味らしいのかな?唯一えるが「ヒロイン」をしているというか、本巻で唯一「ヒロイン」がいる話だと思います。

 

ずっと家を継ぐものと考えてきたえるの心の叫びが表題。

最後にはちゃんとミステリーをして、奉太郎はえるを見つけるのですが、結局えるは合唱祭にむかったのか。

ここはぼやかしたまま終わります。

 

 きつい思いをした後に誰かが迎えに来てくれるのは嬉しいものだ。だったら行ってやるのは、あながち、やらなくてもいいこととは言えないだろう。

 とちゃんと自分の行動に理由をつけて行動するのが極めて奉太郎らしくていいな、と思いました。

いやいや、よく考えるとこれはミステリーじゃない、であるとしてもかなり変化球ですね。 

 

 

焦点が当てられているのは一貫して奉太郎たちの「過去と未来」。

この主題が青春にスポットを当て、単なる短編集にとどまらぬ統一性を与えていると思います。

 

最後、奉太郎をヒーロー、えるをヒロインとしている一編で終わらせたことがとても印象的。

もう一度最初から読み返そうかな……

 

 違う視点から感想を書き加えました。

look-down-scorpion.hatenablog.com